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広島文化賞受賞者に聞く 〜広島芸術学会

掲載日:2021年2月25日
第41回広島文化賞、団体の部で受賞されました広島芸術学会会長の青木孝夫さん(東広島市)にお話を伺いました。

◆広島文化賞の受賞おめでとうございます。
 ありがとうございます。これはひとえに33年間、芸術についての大切な思いを、研究者だけでなく、作家の方々や広く社会、特に広島の人々と共有したいと考えて学会を運営してきたこと、また、こうした理念を打ち出した初代会長や事務局長、創立に携わった人々の先見の明の賜物と考えております。 

◆「市民、作家、研究者に等しく開かれた学会」であることを基本精神に、一般の芸術愛好家も会員になることができ、例会には一般市民も参加できるのだそうですね。
 この精神は、一般の人達が持っている芸術についての考え方や受け止め方に対して、研究者も美術館の人も、他の芸術に関わる人々も、それぞれがまた一人の市民として、生きている芸術に関する学問の根や感性の源、要は知の泉を共有したいという思いに基づいています。ですから、会員の多くは研究者ですが、芸術を愛しておられるということや、芸術に関し相互の知的啓発の尊重が入会の要件になっており、会員以外の方でも、例会はじめ夏の大会に自由に参加することができます。
 例会は、研究発表を中心に、初夏もしくは初秋に催し物を見に行くような野外例会を開催してきました。加えて隔年に1回、美術作家たちによる「芸術展示」を企画、開催し、アーティスト・トークなどの交流も行っています。
 今の日本に生きる市民、庶民の生活は、明治維新以来の西欧の芸術文化の流入・定着の一方で、俳句、生け花、茶道等、日本の伝統的な生活が生み出した教養や美意識にも深く根差しています。それらは和歌や日本画、さらに衣食住を含め、多元的な日本の生活と深く関連しています。
 学問が枯れないためには、こうした日本の文化のありよう、この社会の土壌に具体的に根差すことが必要でしょう。私どもの研究あるいは学問といったものは、市民生活に根差す必要があるという思いが市民、社会に開かれた学問という理念になって、学会運営の推進力になってきました。 
 
◆例会や大会では地域に根差した活動もしておられると伺いました。
 地域に根差すということは、片仮名のヒロシマにこだわることだけを意味している訳ではありませんが、広島を語るとき、やはり原爆の問題に触れない訳にはいきません。「広島」を名に冠した広島芸術学会では、原爆が広島に落としている影、あるいはそこから育った文化を、原爆以前の時代も含めて、幾つかの角度から繰り返し取り上げてきました。
 例えば、原爆がもたらした文化的断絶について。広島では、近世以前から営々と築き上げられてきた浅野藩はじめ広島市域を中心とした文化の流れ、神社仏閣・旧市街等が、原爆の投下により、いったん灰燼に帰しました。そのために、例えば広島の美術の伝統といったものについても、江戸時代から明治、大正と続いて育まれてきたものが途絶えているというか、流れの把握が困難となっています。こうした大変残念な状況に対して、今一度、過去の広島を振り返り、浅野藩をはじめとした広島の文化遺産を改めて見つめてみようと、幾つかのシンポジウムや研究発表を重ねてきました。(シンポジウム「広島の地域性と美術」、「近世都市・広島とその芸術文化」、例会「明治期の広島における洋楽普及のネットワーク〜一次史料の調査をもとに〜」など)
 そして、いわゆる片仮名のヒロシマに関わるさまざまなテーマについて。広島は原爆が投下された1945年の8月6日を契機として、ある意味で非常に大きな負の文化遺産を背負うこととなりました。ですがこれがまたヒロシマであることの自覚を広島に植えつけていくわけです。その自覚を徹底すればするほど、広島は広島としての文化を生み出すにあたって、原爆を無視するわけにはいかず、むしろ原爆ないし被爆体験という出来事を介して、広島はいかにあるべきなのか、それを人類の指針として役立てようといったような発想に基づいて、音楽も文学も絵画も、その後の長い営みを形成してきたところがあるわけです。すでに被爆から4分の3世紀を経た広島のあり様は、そうしたものの上に深い影響を及ぼしています。(シンポジウム「ヒロシマの記憶と痕跡のかたち」と特別報告「音楽はいかにヒロシマを伝えてきたか」、例会特別講演「私と広島/ヒロシマ」、シンポジウム「戦争画と「原爆の図」をめぐって—その政治性と芸術性の問題」、例会「ヒロシマ・アート・ドキュメント—アートを巡るフリー・トークの会」)
 そのほか、広島の都市景観を恵まれた自然美や環境保全の角度から捉えた発表も含めて、広島芸術学会では、広島やヒロシマといったものを、歴史的にも空間的にも多面的に取り上げながら、地域に根差す活動をしてきたことをご紹介させていただきます。

◆今後も継続していきたいこと、またこれから新たに取り組んでいきたいことなどお聞かせください。
 一般市民の方々と触れ合うこと、これは今後も変わらず継続しなければと思っています。年1回出してきた『藝術研究』の刊行も続けます。一方、今後は、従来の姿勢の延長線上として分野や地域を拡げ、より工夫していくことを新しい取り組みとして考えていきたいと思っています。
 
ありがとうございました。
今後の予定を伺いましたのでご紹介いたします。


■第132回例会
2021年3月7日(日)13:00〜16:30 ウェブ会議システムZoomを用いたオンライン開催(先着100名)
第1部 青木孝夫「日本の美学、東アジアの芸術観(仮)」
第2部 多田羅多起子「作品調査の記録をたどる─土居次義によるモレリ法の応用─」

第12回芸術展示〈制作と思考〉「Sweet Home―家庭の美学」
2021年3月16日(火)〜3月21日(日) ※会期中無休
広島県立美術館 地階 県民ギャラリー(入場無料)
出品作家16名
※コロナ禍の下、私たちの生活に根差す場所である「家」に着眼して、芸術的な感性で捉えた作品を紹介

詳細は事務局hirogei@hiroshima-u.ac.jpへお問合せください。
広島芸術学会の年報や会報は当財団文化情報コーナーにも配架しております。
ご興味のある方は是非、手に取ってご覧ください。

会長 青木孝夫さん


「制作と思考」第4回展


年報(1988年創刊号と2019年号)