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発足20周年 地域に根ざす“サンパルオーケストラ” (福山市)

掲載日:2008年8月1日
■沼隈町に誕生し、今年で発足20周年おめでとうございます。まずは、オーケストラ誕生のきっかけ、これまでの活動についてお聞かせいただけますでしょうか。
浜田: ありがとうございます。そもそもの発足のきっかけは、平成元年に沼隈町に初めてのホールが完成するとき、当時の倉田町長さんが「立派なホールができるのだから、オーケストラを作ろう」と呼びかけられたことです。
初代の代表者になられた北村通典さんが、いろいろ情報収集され、音楽教師や吹奏楽の経験者、音楽に興味のある人などを募って平成元年6月に発足しました。初めは全くの素人ばかりで吹奏楽をやったことはあってもオーケストラの経験はない、譜は読めてもバイオリンやチェロなどは音の出し方も分からない、オーケストラというにはほど遠い状態でした。精々暮れのクリスマスシーズンに小さな発表会を開くというようなものでした。
そのうち、ホールの“こけら落とし”でNHK交響楽団に室内楽演奏をお願いしたご縁で、N響メンバーが中心となりご指導くださることになりました。これが毎年夏に開催している「ミュージックトレーニング」の始まりで、今年は17回目になります。5日間前後のトレーニングと最終日に仕上げの定期演奏会を開催する形で継続しています。発足10年目に現指揮者の柳井弘文先生が就任され、ここに来てやっとオーケストラとしての形が出来つつあるのかなあと感じています。

■やっとオーケストラとしての形が出来つつあるということですが、次のステップに向けて、これからどう活動されていきたいとお考えですか。
浜田: やはり“継続は力なり”で、これからもずっと続けていけるように、他の方から「さすが!」といって実力を認めていただけるようにやっていきたいです。特に子どもたちが、サンパルオーケストラを通していつまでも音楽を続けていかれるようになればよいですね。
発足当初、小学生だったメンバーで、音楽大学などへ進み、ここに帰ってきた人は4〜5人です。社会人になって、仕事が忙しいなどの理由で活動を休む人もありますが、確実に続けている人もいます。結婚を機にこの町を出る人などやめる事情はさまざまですが、できればこの町でいつまでも一緒に続けていきたいですね。
篠原: オーケストラにたくさん入ってきてほしい。楽器に興味のある子どもたち、音楽をやっている中高校生には夏のミュージックトレーニングに参加して、もっと音楽の楽しさを知ってほしい。サンパルオーケストラメンバーだけでなく、一般の方も受講でき、グループや学校単位でも指導を受けることができます。プロの演奏家から直接指導が受けられるのです。

■ミュージックトレーニングでは、プロの演奏家の集中指導を受け、一緒の舞台で演奏できるとは、音楽愛好家にとってとても素晴らしい環境ですね。
浜田: そうですね、こちらに来てご指導くださるというのはとてもありがたいことです。指導では、技術的な基礎の基礎を言われることもありますが、「この部屋全体を響かすように」など、音の出し方ひとつについても例えが非常に具体的で分かり易いです。言葉の一つひとつが「なるほど」と自分自身に入ってくるような指導なのです。とはいっても私にはなかなかそのとおりにはできないんですけど・・。
篠原: 先生方の指導は、お医者さんみたいなもので、この人にはこの薬が効くといったように、この人にはこういうやり方がいい、これが必要だろうとか。皆に同じ指導ではなく、一人ひとりに、パートごとに、何が必要かを鋭く見抜き、おっしゃることが的確です。先生方は演奏家として素晴らしいのはもちろん、指導に当たっても私たちのことをよく理解して指導くださっていますし、本当に尊敬できるすごい人たちです。
浜田: 先生方には沼隈を好いていただいており、ありがたいことだと思っています。福山駅に迎えに行って沼隈に入った辺りから「あー、ふるさとへ帰ってきたようだ」とか「空気が違う」などとおっしゃってくださいます。
篠原: 今年の演奏会では、先生方の“沼隈のここが好き”というところをひとつずつ言っていただこうかなと、秘かに思っているんですよ。

 2008年講師
 堀江   悟 バイオリン(NHK交響楽団団友)
 木越   洋 チェロ(NHK交響楽団首席奏者)
 齋藤 賀雄 フルート(元 読売日本交響楽団)
 浜   道晁 オーボエ(NHK交響楽団団友)
 小原 裕樹 トランペット(聖徳大学・東邦音楽大学講師)
 三輪 純生 トロンボーン(NHK交響楽団団友)
 瀬戸川 正 打楽器(NHK交響楽団団友)


■今年の演奏会について教えてください。
篠原: 日時は8月24日(日)15時開演です。今年の演奏会では『管弦楽のためのラプソディー』という日本の民謡など取り入れた曲を披露する予定です。N響が海外公演に行かれたとき、アンコールなどで演奏される曲で、これに私たちが挑戦します。和楽器の鐘や太鼓の音など響かせ日本の「和」を意識した曲になっており、海外では大変喜ばれるそうです。今まで私たちが演奏してきた曲とは少し意外な感じの曲調になっているので楽しみにしていてください。

■皆さんは仕事をお持ちだったり多忙な毎日をお過ごしですが、練習時間はどのように確保、工夫されていらっしゃるのでしょうか。
篠原: 練習は毎週木曜日の夜、「もうこの日は絶対来る」と決めて仕事は早めに切り上げる、忙しくてもご飯をダーッ!と食べて来るとか、休みを取るとかですね。みんなそういう風な意識で来ていらっしゃいますね。
浜田: みんないい顔で来られます。「疲れたー」という顔はなく、イキイキとした表情で来てですよ。いつの間にかそれが習慣になってきたのだろうと思います。

■このオーケストラは小学生から大人まで幅広い年齢層で構成されてますね。
浜田: だいたい40人ちょっとで小学生から60歳代までのメンバーです。

■お二人はオーケーストラのメンバーとして、運営のお世話もされており、ご苦労があったのではないかと思います。最後にお二人から後に続く若い人たちにメッセージをいただきたいと思います。
浜田: 苦労というより、今までとても楽しくやってきたという感じです。大変というよりも、学生やジュニアを育てていきたいという希望があるものだから、せっかく子どもたちが入ってきても、長く続けられないことはとても残念ですね。小学生で始めても中学生になると塾だとかほかにいろいろなことがあり、せっかく入ったのに辞めざるを得ない、音楽をずっと続けていってほしいです。
篠原:  オーケストラには、一緒にひとつのものを作り上げていく過程や演奏会の感動を味わえる素晴らしさがあり“それを経験して”と若い人たちに伝えたい。人と人との出会いもあり、指揮者の柳井先生や、中央から来られる先生方、メンバーなどいろんな人たちと知り合える。たまたま音楽が共通点ですが、いろんな世代の人たちがいて、お互いが助け助けられていくわけです。そういう人間関係の中で皆といっしょに成長していってほしいと思うんです。素晴らしい体験です。

■地域の音楽愛好家が集まって発足したサンパルオーケストラの活動が、中央のプロ演奏家の心を動かし、今や一緒になって音楽のあるまちづくりが展開されています。その中核となって活動しているサンパルオーケストラには、大きなパワーが感じられました。
「20周年記念演奏会」のご成功とますますのご発展をお祈りいたします。本日は大変お忙しい中をありがとうございました。

(福山分室 安倍)

◆後日談◆
 8月24日、沼隈サンパル文化センターで開催された「サンパルオーケストラ20周年記念演奏会」を満席の観客とともに鑑賞しました。「ドヴォルザーク交響曲」や「ビートルズメドレー」「管弦楽のためのラプソディー」など次々に演奏され、曲が終わるごとに会場内では「ブラボー!」の声や多くの拍手で沸きました。周りの人からは「これを楽しみに毎年来ている」「今年のオーケストラは更にレベルアップしていてびっくり」などと笑顔と驚きの声が聞かれました。
 演奏会終了後、毎年メンバーと一緒に演奏している指導者のひとり、掘江悟さんに感想を伺うと、「今日の演奏は大成功」と満足のご様子。オーケストラの立ち上げに携わり内容を見守ってきた友野薫さんは「前半のドヴォルザークの曲が終了したときは思わず涙がこぼれた」と感激もひとしお。三原市内から毎週練習に通っているという上西有希子さんの顔は充実感でいっぱい。「この活動が自分を若い気持ちにさせてくれる」とは大岡靖典さん。メンバー全員が音楽を楽しみ味わっているという感じが伝わってきました。その中でも世話役の篠原さんは、「さっそく来年の演奏曲を決めないとね」と既に気持ちを切替えておられました。
 このオーケストラは来年、また再来年へとずっと続き、発展していくことを確信しました。

過去の定期演奏会の様子 1


過去の定期演奏会の様子 2


2008年記念演奏会の練習風景